経理職と、「数字に強い」という概念

こんにちは、美波です。

突然ですが、「数字に強い」という言葉を聞いたことはないでしょうか。

「美波さんって、経理なんでしょ。数字に強くて羨ましい。」

こんなことを、経理職に就いてから何度か言われたことがあります。

ところで「数字に強い」って何でしょうか。数字に強くないと、経理はできないのでしょうか。

今回はこの「数字に強い」という謎の概念について、現役経理職員による解釈のお話です。

「数字に強い」は経理の必須条件ではない

ということでいきなり結論ですが、数字に強いことと経理職への適性とは無関係、というのが私の見解です。

そもそも、私の解釈における「数字に強い」とは、様々な事象を数字に置き換える直観力や、頭の中で素早く乗算除算を繰り返し概算数値を導き出すことのできる計算力のことを指します。

文系理系で言うなら理系人間的な強みが「数字に強い」という言葉の示すものであり、卓越した長所、積極的にアピールできるような強みのニュアンスが「数字に強い」という言葉には含まれているように感じます。

そんな高尚な能力がなければ、経理職は務まらないのでしょうか。

これに対して、私は声を大にして「NO!」と言いたいです。

高度な演算能力を必要とするほど、経理というのは大層な職種ではありません。

と同時に、単なる演算速度のみで切り抜けられるほど、経理は甘いものでもないと私は思うのです。

経理の本質は、内外に経営状況・課題や成果を「説明」すること

では、経理に求められる能力とは何か。こと、いち組織人として求められる経理の能力は、対峙する人に応じて臨機応変に会社の経営的な状況を説明する能力です。

例えば、自分の会社の社長が経理である貴方の元へやってきて、こんな風に問いかけたとします。

「最近経営が思わしくないように感じるんだが、経理的にはどう思うかね。経費削減できるようなところはないかね。」

これに対して、素晴らしく数字に強い経理マンAが、即座に昨年の決算書を頭に浮かべ、現在の経費執行状況と比較検討し、最も経費の比重の大きな経費部分を弾き出してこう答えました。

「社長の役員報酬を切り詰めればいいんじゃないですかね。」

その後、経理マンAは人事異動の憂き目にあい、経理とは全く無縁の職種へと転換されましたとさ。

…というのは極端な話で、これだとAは空気読めない人で終わってしまうわけですが、経理の実情と理想のギャップという点では、あながち間違っていない事例なのです。

つまり、経理も会社の一員で、会社や会社を取り巻く環境には流れのようなものがあります。例えば最近だとSDGsなんてのが常識化し始めており、 SDGs への取り組みが会社のステータスになったりしています。

この状況下で、社内で余剰金の処分方法について議論となったとき、提案の中にはやはりSDGs関連の取り組みを盛り込むのが好ましいでしょう。

同じように、一人親方的な会社で、社長が最近、新規事業を立ち上げたとします。 始めたばかりで規模は小さいですが、社長としては相当に期待を込めて事業設計をしていた案件です。

さて、事業を立ち上げて初めての決算を控えた今、経理としては、たとえ法人全体の数パーセントの規模でしかなかったとしても、この新事業の採算性や将来の展望について、触れないわけにはいかないのです。

こんな風に、経理に求められているのは、適切な処理・正確な数字だけではありません。それらの数字を基礎として、会社が、社長が、従業員が、株主が、これら関係者が真に知りたがっている情報を、場面場面で適切に説明する能力が、経理には求められているのです。

それはあたかも、学生時代の国語の授業の「作者の気持ちになって答えなさい」という問いのように。いかにも文系チックな、コミュニケーションの延長のような能力だと私は思うのです。

即答できなければ確認してから回答すればいい

かくいう私も、いわゆる文系出身者です。数字に苦手意識こそありませんが、細かい数字を逐一覚えているほど数字が好きなわけではありません。

役員である上司に「去年の人件費はいくらだったかな」「一昨年の余剰金はどのくらいだったかな」なんて聞かれても、即答できたことなんて数えるほどしかありません。

そんな時は「調べて後でお答えします。」といって回答を待ってもらいます。面接じゃないのです、即座に回答する必要などありません。しっかり調べて、後ほど、正しい数字を確実に答えればいいのです。

加えて、私は回答する際には、なるべく「質問の真の意図」を汲むように努力してきました。

「そういえば、今年は新規採用職員を大幅増する噂があったな。人件費を聞いてきたということは、人を増やしたときに経営がどうなるかのシミュレーションがしたいのかもしれない。数年間の人件費の推移と、増減の原因をまとめて報告しよう。」「今年度は収益の伸びが悪いって役員方が気にしていたな。昨年度の余剰金で賄えるか気にしているのかも。でも、昨年度と比べて大幅に経費削減しているから、純粋な利益はそんなに変動してないんだよなぁ。この辺りも付け加えて資料を作っておこう。」

こんな感じで、事前に社内で話題になっていたことに気を配り、質問が来た際にはなるべくその文脈に沿った回答をしてきました。

当然、盛大に空回りしたこともありますし、読みが真逆だったこともあります。ですが、私が今だに唯一の経理職員として生き残っているのは、質問者に対して一歩踏み込んで回答するよう心掛けていたことおかげではないか、と思っています。

仕事も所詮は人と人。コミュニケーションも大切に。

というわけで、「数字に強い」という謎のフレーズについて触れてきました。

数字を使うのは経理の特徴ですが、それが経理の全てではありません。予算書・決算書・損益分岐点・経費削減…いずれも相手の人があってのことです。

計算が苦手ならゆっくり確実にこなしましょう。覚えが悪ければ何度でも確認しましょう。

そうやって作った数字を、相手のことを考えて、相手の気持ちになって、わかりやすく説明してあげましょう。

それこそが、経理にとって必要不可欠な姿勢だと、私は思います。

今回はここまでです。ここまでお読みいただきありがとうございました。