会計事務所という業界の実態(経験談)

こんにちは、美波です。

今日から数回に分けて、私が経験した会計事務所での就労の実態についてお話しします。

新卒者や転職希望者が経理を志すとき、企業の経理職に次いで気になるのが、会計事務所の職員というポジションではないでしょうか。

少し乱暴な言い方ですが、企業での経理職は雇用の安定が魅力であるのに対し、会計事務所の職員というのは自身の専門性を磨き、いずれはその道で独立するという身の振りができる点が魅力だと思います。

ただ、いずれを選んだとしても、やはり就業中はつらいことや意にそぐわないことが多々起こります。

企業(団体職員)と会計事務所の両方を経験した身として、双方のメリット・デメリットを知っていただき、様々な観点から、皆様の進路決定の一助ができればと考えています。

なお、先に結論を書いておきますと、会計事務所への就職・転職は、よほど強い目的がない限りお勧めしない、というのが私の見解です。私自身が、新卒で会計事務所に就職して苦労しましたので…。

冒頭のこのスタンスをご理解の上、一つの読み物として読み進めていただければと思います。

まず手始めに、今回は会計事務所という業界の実態についてお話します。

会計事務所とは

会計事務所、と言っても、その業態は色々です。

色々なんですが、一般的に多いのは「税理士事務所(法人)」「公認会計士事務所(監査法人)」の2強でしょう。

事務所、というのは法人格のない個人事業主で、従業員は所長さんに直接雇われる形になります。

一方で、法人格のある税理士法人・監査法人は、代表社員として所長さんポジションの方がいるものの、従業員は法人そのものに雇われる形になります。

個人事務所の場合、所長との労使関係がダイレクトに影響します。上司に逆らえない部下、というのはどの世界でもありますが、個人事務所の場合はその上下関係が顕著ですので、人間関係が特に気になる方は注意が必要です。

法人の場合は、就業規則などを定める義務がありますので、「所長が絶対」の個人事務所よりは法令順守を意識した雇用関係が多いでしょう。

ただ、一見しっかりとした就業規則があったとしても、法令順守が「保障」された雇用関係とは限らない、というのがこの業界の怖いところでもあります。

法人格があっても個人事業主的な世界です

会計事務所における法人格の有無について説明しましたが、例え法人格があっても、設立間もない税理士法人・監査法人は、代表者の権力が非常に強く、ともすればワンマンな経営方針、雇用関係が強く残っていることが多いです。

というのも、例えば税理士法人では、税理士の資格を有する者が2人以上集まって税理士法人を設立するわけですが、その税理士たちはそれぞれが自身の個人経営の基盤をそのままに、法人を設立します。

若しくは、一人の税理士さんに付き従う形でもう一人の税理士さんが合流して法人を設立するケースもあり、この場合だと先行する税理士さんの経営方針がそのまま法人に引き継がれます。

つまり、もともと個人でやっていた税理士さんが、従前のやり方のまま、ただ単に規模を大きくするため・社会的信用を獲得するためだけに税理士法人を立ち上げるケースが多く、法人として改めて手法を確立していく、といった意志の希薄さが目立つ場合が多いのです。

ですので、外側は法人であっても、中身は個人事務所のまま、下手をすればそれぞれの税理士が全く違った経営方針を掲げながら法人運営を行う、というケースもあり、知らずに雇用された職員は大いに混乱する可能性があります。

優秀な専門家=優秀な経営者ではない

税理士や公認会計士は、その分野のエキスパートです。

素人には理解不能な専門知識について知識を有し、クライアントの不安や欠点を指導し解消してくれる、社会にとって必要不可欠な存在です。

しかしながら、このような方たちが法人として組織を立ち上げ、自分と同じ能力の従業員を集めたスーパー専門家集団を作ろうとしたとき、一つの無理が生じます。

それは、その専門家は、プレイヤーとして質の高いサービスをクライアントに提供し続けながら、同時にマネージャーとして法人運営を行い、現場を従業員に譲らなければいけない、ということです。

もちろん、そのあたりの引継ぎをうまくこなす方もいます。しかし、自分の腕一つで顧客を獲得してきたプレイヤーにとって、新規に雇った従業員に大切な顧客を任せることは難しいこともあるでしょう。

結果的に、あくまで傾向として、ですが、優秀な専門家ほど、その高い能力を後進に伝えることができず、いつまでもプレイヤーとして強権を振るい続けることが多いのです。

社会経験にはならないことが多い

上記のとおり、これら会計事務所の業態は、例え法人格を有していても、非常に個人経営的な側面が強いです。

もちろん、エキスパートとしての事業主に魅力を感じ、先人から技術を学ぼうという強い意志があるなら、会計事務所への就職は有意義なものになるでしょう。

しかしながら、例えば学校を卒業したばかりの新社会人が、社会の仕組みを学ぶ目的でこの業界を目指すのは、あまりにもリスクが高いと私は思います。

というのは、先ほどから述べている通り、存在する会計法人のほとんどが、法人とは名ばかりの個人事務所であるため、その中にあっては、組織で働くといった経験を得ることは困難だからです。

課題に悩み、上司に相談し、まとめた意見を所属長にプレゼンし、所属長会議で揉まれた自分の意見が役員会議等で採決され会社としての一行動となる、といった、日本各地に根付く社会の仕組みは、自分-所長で完結する個人事務所にあっては一切身に付きません。

専門家として突き進むなら不要なプロセスかもしれません。私自身、悪しき習慣、と思わなくもない旧態依然としたシステムです。

ですが、もし、専門家への道に挫折し、サラリーマンとして再スタートを切ろうとしたとき、つまり、会計事務所から企業の経理職へ方向転換したとき、いわゆる社会人としての経験がない、というのは非常に大きな足かせとなります。

私自身、今の職場に転職するまで、課長や部長といった役職の順位や種類を全く知らなかった、という苦い過去があります。

個人経営色の強い税理士法人でしたから、役職は「所長」と「所長以外」しかありませんでした。部長や課長はまだしも、「主任って何?係長と何が違うの?」「次長って…?部長とどっちが偉いの…?」と、決裁の押印欄とにらめっこしながら役職席を右往左往した記憶がよみがえります(笑)

特に新卒の会計事務所への就職は慎重に

というわけで、会計事務所の業界の実態について、経験を踏まえてお話ししました。

様々な業種を専門的な視点から視ることができるのは会計事務所の大きな魅力ですが、一従業員として骨を埋めるには非常に不安定な側面も否定できません。

まとめると

・例え法人格があっても、雇用関係は個人経営的な業界である

・専門性は磨けても社会人経験は積めない。新卒は特に注意を!

・就職するなら確たる目的意識をもって就職しよう

というのが、会計事務所への就職・転職希望者へのアドバイスとなります。

専門家を目指して会計事務所を志望するのに、転職、ましてや一般企業への転職を前提に考えるなんてナンセンスだ、と思われるかもしれません。

ごもっともな意見ですが、専門家になる、というのは並大抵のことではありません。そして、専門家になるために専門家に師事する、というのが必ずしも最適解ではないのです。

この辺りについては、改めてお話ししたいと思います。

本日はここまでです。お読みいただきありがとうございました。