アニメ療法 心をケアするエンターテイメント【読書感想】
こんにちは、美波です。
本日は読了した本の感想・紹介です。
今回読んだ本は、パントー・フランチェスコ氏の「アニメ療法 心をケアするエンターテイメント」(光文社新書)です。
久々の新書なので、読んでから感想を書くまでに時間がかかった…。どうかご笑納くださいませ。
自宅の漫画収納棚に飾っておきたい頼もしさ
「やってくれた!俺たちのフランチェスコがやってくれたぜ!」
思わずそう言いたくなるような、オタク達の救世主的新書の登場です。
今でこそクールジャパンなんてカテゴリで国家戦略にも位置付けられるアニメ。そんなアニメも少し前までは陰キャ御用達の秘匿すべき趣味という偏見のもと、愛好家達は肩身の狭い思いをしていたものです。
この本は、そんなアニメを、精神への治療(要表現確認)の非常に有効なツールと認識し、その有効性や可能性を科学的に証明していくという、アカデミックな本となっています。
我らの趣味を真っ向から肯定する、まさにオタクのバイブルとなるのではないでしょうか。
なぜ本書がそこまでの権威をもつか、その理由の一つが筆者のパントー・フランチェスコ氏の経歴にあります。
異色の経歴の筆者が真面目に語るアニメの効能
「アニメって、すげーんだぜ!」
そう言って共にアニメを鑑賞していた友人達が、いつの間にやら「アニメなんて子どもっぽい」などと冷めたことを言うようになる、そんな経験は誰にでもあるでしょう。
そんな、資本主義的な競争社会に取り込まれていった人々に一泡吹かせるには、虎の威を借る狐、ではないですが、意見を補完するような箔をつけることが有効です。
その結果、面白いという単純な感想を生真面目に正当化しなければならなくなった滑稽な様子を揶揄しているのが、あの有名な涼宮ハルヒのコピペだと私は思っているのですが、とにもかくにも、身近な娯楽であるがゆえに、その娯楽性以上の価値を一般化して伝えるのは難しいものです。
その点本書も筆者は、イタリア人医師であるだけに留まらず、筑波大学で日本の医師免許を取得し、日本で精神科医になったという異色の経歴の持ち主です。非常に優秀な外国人が、母国語でない日本語で執筆した学術新書、という、とてつもない説得力が本書にはあります。
外国人でしかも医師という社会的ステータスのある方が、わざわざ日本で医師免許を取得してまで研究したいテーマがアニメにはあるんだ、という事実。
あるいは、それほどの高尚な人がアニメは役に立つと言っているんだ、という事実。
平凡なオタクにとって、威を借るのに本書ほど頼もしい存在は無いのではないでしょうか。
そんな邪な好奇心に吊られて読み始めた本書ですが、既存の精神療法を丁寧に説明しながら、筆者が主張するアニメ療法なる心のケアについて紹介がなされており、さほどに詰まることなく読み進めることができました。
本書の主張
筆者の言うアニメ療法を自分なりに纏めてみると、
・物語に没入し、その世界を疑似体験することで、物語での出来事を疑似体験できる。
・物語の中でキャラクターが困難に遭遇したときに、自身が過去に体験した類似するトラウマを客観視できる。
・物語でそのキャラクターが困難を克服したときに、客観視した物語を自身の経験となって、トラウマ克服の一助となりうる。
・その題材としては、生身の役者のような個性がなく、一方で繊細かつ緻密な作り込みで、リアリティのある日本のアニメーションこそが最も没入に適した作品である。
といった内容になります。
筆者はさらに、アニメ療法は治療ではなく心のケアであると定義したうえで、対患者、ではなく、万人の心のケアに有意義であるとしています。
確かに、心を動かされたアニメを観終わった後の清々しい気持ちや余韻を科学的に表現するならば、筆者の主張は説得力があるように思います。
筆者の主張との向き合い方
そして、私としては、筆者の一連の主張は、アニメに留まらず全ての「人に誇れないような地味な趣味」に対して言えるのではないか、と思いました。
つまり、ある種の排他的な趣味を持ちつつも、それに没頭することで心が洗われるような体験ができるというのは、自身のwell-beingのために非常な有意義なことであるということ。
そして、ここで私は筆者に励まされたと感じたのですが、その趣味が自身にとって精神の安定に寄与するものであるならば、それは他者にどう思われるものであろうとも非常に崇高なものであって、他人に嘲笑されるものであるはずがない、と解釈できるのではないでしょうか。
もちろん、その趣味が他者を不快にしたり、傷つけるようなものは論外ですが、自身で完結するような趣味であるならば、アニメであっても漫画であっても、その他どんなものであっても等しく尊重されるべきであると、そのようなテーマが本書には込められているように私は感じました。
本書の後半では、アニメ療法がより臨床的であるためにはどのような要素を備えるべきか、というまさに精神科医としての挑戦が記されており、見事に学術書として締め括られているのですが、本書は精神心理学に知見のある方のみならず、ささやかな趣味を持ち、それを素直に肯定できないような方にこそ読んでいただきたい新書だと思いました。
実験やデータに裏付けされた筆者の強い思いに触れた折には、アニメや漫画、その他のある意味肩身の狭い趣味たちを、読者は素直に肯定し、慈しむことができるようになっているのではないでしょうか。
自分の「好き」を貫く強さ
というわけで、「アニメ療法 心をケアするエンターテイメント」の感想でした。
ニッチな分野の話題は興味をそそられますね~。このすこし前に読んだ「最後の秘境 東京藝大」といい、ほぼ即決で手に取ってしまっていました。(こちらもまたいつかブログに感想を載せたいです。)
ですが、アカデミックな文体と題材の庶民感の混在が心地よく、図解として挿入される筆者のかわいいイラストも相まって、楽しく読める一冊となっています。
アニメに限らず、自身の無い趣味の一角にそっと本書を添えておきましょう。きっと趣味を肯定する力強い味方となるはずです。
ということで、今回はここまでです。お読みいただきありがとうございました。